家元 中島雅楽之都中島靖子唯是震一中島一子奥田雅楽之一唯是雅枝

初代家元 中島雅楽之都(なかしまうたしと)

 正派の創始者、初代家元中島雅楽之都は1896(明治29)年3月21日京都に生まれ、6才のときから箏の道に入る。
 1913(大正2)年長野市において「正派生田流」の名のもとに、本格的に教授活動を始める。看板を掲げるにあたり、善光寺大本願・大宮智栄上人ほか地元の名士たちの後援をうけ、正統な生田流を修行した者であるという意味でつけられたのが 「正派」の名のおこりである。
 わずか17才の若さで一派をたてた雅楽之都は、7年後には東京に本拠地をうつし、日本各地はもとより旧満州国、蒙古にまで精力的に足を運んで、箏曲の普及に努めた。こうして蒔かれた正派の種は大きく育まれ、やがて全国に多くの幹部を養成する源となり、現在の組織の基盤となっている。
 一方、雅楽之都は自らも常に研鑚を惜しまずに芸と人格をみがくことに努め、《和歌の浦》《松籟譜》《四方の海》など優れた数々の作品を発表。三弦は熊本まで出向いて長谷幸輝師に師事。ここで同世代の宮城道雄と知り合い、二人の若き箏曲家は熱く芸を語り、生涯の楽友として新しい邦楽界を担っていった。ほか坪内逍遥、山田耕筰、町田佳聲、中尾都山、田辺尚雄などの各氏にも知遇を得、様々な面での教えをうけている。
 正派は、当時の箏曲界では画期的であった施策を次々と打ち出した。伝統的な口伝教授の限界を感じての公刊楽譜の発行、洋・邦楽理論をふくんだ筆記と実技を平行させた試験による准師範試験の施行、全国組織としての評議員制などであり、これらはその後、年々充実の度を増しながら現在に至り、正派の特色として高い評価をうけている。
 組織としては、いわゆる「家元制度」の長所を生かしながら、近代社会に対応できるようなあり方が求められるようになり、1956(昭和31)年9月、邦楽団体では初めて文部省より「財団法人正派邦楽会」の認可を受ける。総裁・理事長には初代家元が就任。
 また初代家元は、世界的視野に立って日本文化の積極的な担い手となる音楽家を育てるための、専門の学校が必要であると長年考えていた。この意図が周囲に理解されて、1959(昭和34)年に正派音楽院が開校され、現在までに多数の優秀な人材を世に送りだしている。
 このような正派の発展を見届けた初代家元中島雅楽之都は、長野市で一枚の看板を掲げた日から67年目の1979(昭和54)年8月17日、83才で亡くなった。

二代目家元 中島靖子(なかしまやすこ)

 本名・唯是(ゆいぜ)靖子。幼少より、父・中島雅楽之都(うたしと)について箏を学ぶ。東京音楽学校(現在の東京藝術大学)邦楽科卒業。同研究科修了。在学中、宮城道雄・宮城喜代子両師に師事。また、作曲法を平井康三郎師に師事。
 1950(昭和25)年、箏の音量を拡大する「箏響台」の完成に協力し、これを用いて、平井康三郎作曲《箏と管弦楽のための協奏曲第一番》を東京フィルハーモニーと初演。
   1952(昭和27)年、国際音楽協議会に日本代表として渡米出席。その後、カリフォル ニア州モントレイ・ペニンシュラカレッジに留学、卒業。
 1957(昭和32)年、箏曲家・作曲家の唯是震一と結婚。以後、数回にわたるジョイントリサイタル、作品発表会ほか音楽活動を共にする。
 1958(昭和33)年、パリ・ユネスコ国際音楽祭に日本代表として参加するなど、欧米各地で公演する。
 1979(昭和54)年、二代目家元継承。総裁・理事長に就任。初代家元が説かれた「和の精神」のもと、さらに会員が心をひとつにして邦楽の発展のために努力している。同年、唯是震一作品による十七弦リサイタルで「芸術祭優秀賞」受賞。
 2001(平成13)年、箏曲の普及と伝承の功績により「伝統文化ポーラ賞」受賞。
 2004(平成16)年、箏曲家としてのみならず、多くの優秀な演奏家養成の功績より「松尾芸能賞邦楽優秀賞」「音楽文化振興功労賞」受賞。
 また、「合奏は一日にしてならず」という気持ちから正派合奏団を結成(1947年)して指導にあたり、正派音楽院設立(1959年)と同時に実技の主任教授となるなど、後進の養成に力を注いでいた。
 2021年10月10日、95歳で永眠。
 代表作、《
交声曲 黎明(あけぼの)》《交声曲 鎮魂頌》《笛吹き女(め)》《春・夏・秋・冬の風物詩》《蕪村の和詩による 悼歌(とうか)》《十七弦独奏のための四つの即興曲》ほか歌曲・独奏曲など多数

 

唯是震一(ゆいぜしんいち)

 1923(大正12)年、北海道生まれ。小樽高商(現小樽商科大学)を卒業後、東京音楽学校(現東京藝術大学)邦楽科に入学。その後、東京藝術大学楽理科卒業(第一期生)。東京藝大在学中の1952(昭和27)年、東京新聞社主催邦楽コンクール作曲部門で第一位及び文部大臣賞を受賞。卒業後、米国ニューヨーク・コロンビア大学に留学し、ヘンリー・カウエル師に作曲を師事。後にロックフェラー財団の招聘により芸術家講師として同大学で教鞭をとる。
 箏曲家としては1970(昭和45)年からは毎年リサイタルを開いており、海外でも活躍する。これまでにニューヨーク・フィル、サンフランシスコ響等と共演、カーネギー・ホール、リンカーンセンターをはじめとした世界の主要ホールに出演。また、ユネスコ世界音楽祭、テヘラン国際音楽祭など国際音楽祭にも多く招かれている。作曲活動では1959(昭和34)年以降、毎秋作品発表会を催しているほか、『なよたけ』(主演:東山紀之)、『楊貴妃』(主演:坂東玉三郎)、『夕鶴』(主演:同)、映画『天守物語』(主演:坂東玉三郎・宮沢りえ)の音楽を担当。
 1988(昭和63)年に紫綬褒章、1995(平成7)年に勲四等旭日小綬章を受章。2007(平成19)年に日本芸術院賞を受賞。遠野市名誉市民。コロンビア大学、正派音楽院、NHK邦楽技能者育成会他で教鞭を執った。
 2015(平成27)年1月5日91歳で永眠。

 

三代目家元 中島一子(なかしまかずこ)

1958年 作曲家 唯是震一、箏曲家 中島靖子の長女として生まれる。
 幼少より平井康三郎、平井丈二郎両師にピアノおよび作曲法を師事。
 あわせて、父の稽古場にて箏を、のちに三弦を習いはじめる。
1978年 矢﨑明子師に三弦を師事し、地歌三弦を本格的に専修
1985年 第 30 期 NHK 邦楽技能者育成会 修了
1988年~正派邦楽会本部稽古場「正派道場」にて家元助手として三弦教授
1990年 平成 2 年度文化庁芸術家国内研修修了
1995年 三弦リサイタルを開催(以後 2016 年、2018 年)
2004年 財団法人音楽文化創造の生涯学習音楽指導員養成講習会 B 級の講師を務める(以後 5年間)
2007年 芸名を「奥田雅子」改め「中島一子」とし、副家元となる
2019年 三代目正派家元を継承

これまで舞台をはじめ、CD 等の録音、NHK のテレビ・ラジオ放送ほか多数出演。 海外での活動としては、1998 年米国・サンディエゴ、2004・2011 年サンフランシスコで行われた ワークショップおよびコンサートに、指導者として参加。2006 年英国・ロンドン大学で行われたサマ ースクールにて講師を務める。2010 年ブラジル・サンパウロでの職格試験委員を務め、現地での コンサートに助演。2013 年カナダ・バンクーバーでのコンサート、2015 年イタリア・ミラノ万博 に合わせて開催された音楽祭にてソリストとして演奏参加。2018 年イタリア・ミラノでのワー クショップおよびコンサートに参加する等、海外に於ける邦楽普及活動にも力を注いでいる。

現在、三代目正派家元、公益財団法人正派邦楽会理事長、正派道場主宰、正派音楽院院長、公益社団法人日本三曲協会常任理事、生田流協会副会長、公益財団法人日本伝統文化振興財団評議員。

 

副家元 奥田雅楽之一(おくだうたのいち)

 生田流箏曲家、地歌三弦演奏家、作曲家。正派初代家元・中島雅楽之都の曽孫として生まれる。 幼少より正派二代目家元・祖母・中島靖子に箏を師事。作曲家で箏曲家の祖父・唯是震一に三弦 を師事。後年、森雄士師に宮城胡弓を師事。二代目富山清琴師(人間国宝)に三味線音楽「作物」 を師事。四世萩岡松韻師に山田流箏曲を師事。富樫教子師に九州系地歌三弦を師事。今井勉師に 平家琵琶を師事。
1985年 国立大劇場「中島雅楽之都七回忌追善演奏会」にて初舞台。 1994年 大阪新歌舞伎座「黒塚(猿翁十種の内」」にて歌舞伎初舞台。
2002年 芸名「雅楽之一」を受ける。
2004 文化庁国内研修生
2019年 正派邦楽会副家元となる。
同年より 「第一回奥田雅楽之一演奏会」を開催。
舞踊音楽、歌舞伎音楽を中心に作曲活動を展開。
作曲活動は純邦楽として《バラード(譚詩曲)》、《花》、《子どもの情景》他。舞踊曲として《木花咲耶姫》(主演:梅津貴昶)、《雪月花三景『仲国』》《新作歌舞伎『プペル』》(主演:市川海老蔵)、 《清経》(主演: 中村莟玉)。
現在:(公社)日本三曲協会会員、生田流協会会員、現代邦楽作曲家連盟会員、(公財)正派邦楽会常務理事、正派副家元。
公式サイト: http://www.utanoichi.jp

 

 

 

唯是雅枝(ゆいぜまさえ)

 幼時より平井康三郎・友美子両氏にヴァイオリンを師事後、父唯是震一より筝曲を学ぶ。
1987年より唯是震一リサイタル・ファミリーコンサートに参加。7月歌舞伎座公演より市川猿之助「黒塚」に出演。
1991年 正派合奏団に入団。
1992年 8月セゾン劇場公演より坂東玉三郎「楊貴妃」に出演。
1993年 文化庁芸術インターンシップ研修生となる。その折に芝佑靖氏に楽箏、真田淑子氏に八橋流箏、宮原千津子に筑紫流箏曲を師事。
1994年 米国タンパ市におけるISME音楽会議及び正派合奏団ニューヨーク市公演参加。
2002年 宮崎まゆみ博士著「筑紫箏音楽史の研究」付録CDの復元演奏に復元(試作)筑紫箏を使用しての演奏を収録。(著書2003年発行)
アメリカ・台湾・ブラジルでの海外演奏するほか、故真弓田一夫氏との「語り」の共演も行う。
正派邦楽会大師範・正派合奏団代表

 

 

 


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